時はベルン動乱後のオスティア。
まだ、リキア王国が生まれる前のお話…
オスティア城内をボールスが慌てて走っていた。その手には、紙が握られている。
そして、ある扉の前で立ち止まり、息を整えてからノックする。
「入りなさい。」
中から、現オスティア領主リリーナの声が返ってきたので、ボールスは中に入る。
「リリーナ様、お話があります。」
リリーナは、ボールスに背を向け、窓から空を眺めていた。
「いいけど、手短に済ませてちょうだいね。」
リリーナは、ボールスに背を向けたまま返事を返す。
「では、リリーナ様、この紙を御覧ください。」
「何かしら?…」
と振り返り、ボールスに歩み寄る。
「あら、その紙は前日に発表した来月の“オスティア経費配分表”じゃないの。勝手にはがさないでちょうだい。
それより、その紙がどうかしたの?」
リリーナは首をかしげる。
「内容ですよ!内容!この警備費の部分を見てください!」
「だから、どうしたのよ…別におかしいところなんてないと思うけど。」
とリリーナは、紙をのぞきこんで言う。
「おかしいに決まっているじゃないですか!大きな丸が1つしかないんですよ!」
さすがにボールスも怒ったように言った。
「別におかしくないじゃない。オスティアの警備なんて私ひとりで十分よ。」
「ですが、もし、リリーナ様に何かあっては…」
「私、こう思うの…」
しかし、ボールスの話をさえぎりリリーナが話し始める。
「これからのオスティアは、重騎士なんかじゃ守れない…
だいたい、重騎士なんて古いわ。遅いし、魔法にはやたら弱いし…私も魔道士のころは、経験値をたくさん稼がせてもらったわ。
LV.1の私でもLV.10強の重騎士でも簡単に倒せたし。」
(それは、ロイ様の全面的な支援のおかげなのでは…)
ボールスは、あえて口に出さなかった…
「LV.10強でも弱いのに、オスティアの中で一番強いのは、LV.9のバースなのよ。弱すぎるじゃない。
そんな、人達に任せるよりも、LV.20の賢者の私がオスティアを守った方が全然、オスティアのためになるじゃない。」
とリリーナは、自信ありげにボールスを見上げる。
ボールスは、悟った。
こんな人にオスティアを任せてよいのか…
オスティアはこのままで大丈夫なのか、と。
オスティアのためになるならばこの機会にエトルリアに留学でも…
しかし、今のリリーナ様が快く承諾してくださるか…
この際、ほぼ無理矢理にでも…
「リリーナ様…申し訳ありません。」
ボールスは槍を握り締める。
そして、ゆっくりとリリーナに忍び寄り、槍をかまえる。
しかし、その瞬間にボールスが吹っ飛んだ。
リリーナが『ファイアー』を放ったのだ。
「あら、ボールス。その槍で何をするつもりだったの?もしかして、私を攻撃しようとでも思ったのかしら?」
リリーナは、ボールスに向かって微笑む…
はたから、見れば“可愛い”と思ってしまうほどの笑顔だが、ボールスにとっては恐ろしい限りである。
「今のは最弱理(ことわり)魔法の『ファイアー』なのに簡単にやられちゃうなんて、私の手元にある神将器『フォルブレイズ』ならどうなってたのかしら?」
さらに、これ以上ない極上のほほ笑み――そこらへんの男子ならコロッとおちてしまうくらいに…――を浮かべる。
ボールスは、立ち上がる事が出来なかった…
リリーナの恐ろしさもあったが、さっきの『ファイアー』によって体力が大幅に削られたことが原因だろう…
「…む、無念…私の力だけでは、無理のようだ…ウェンディ…後は頼んだ…」
ボールスは、気を失った…
そのころウェンディは、兄でもあるボールスの命を事前に受け、ロイのもとを訪ねていた。
「ロイ様!!」
そう言いロイの部屋への扉を勢い良く開けた。
中でロイは剣を振っていた。
初心を忘れないロイはこうして定期的に剣を振っているのである。
「あっ、ウェンディ、久しぶりだね。」
ロイが剣をさやに戻し、手で汗をぬぐいながら、ウェンディに笑いかける。
ウェンディも「お久しぶりです。」と言って頭を下げる。
「ところでウェンディ、ずいぶん慌ててるようだけど、何かあったのかい?」
「実は、リリーナ様が…」
「まさか、またクーデターか!?」
「いえ、逆にリリーナ様がクーデター的なことを…」
とウェンディが慌てて付け加える。
駆け出そうとしたロイが「えっ!?」と言って足を止めたのだった…
「――要するに、僕にリリーナを止めて欲しいって事だね。」
「その通りです…リリーナ様を止めてください。」
「そう言われてもね…」
「そこをなんとかお願いします。」
「でも、相手はリリーナでしょ。もし、『サンダーストーム』なんか使われて、遠距離から狙われると、反撃出来ないし…
それに、神将器『フォルブレイズ』もリリーナが持っているし…」
「ですが、ロイ様も神将器『デュランダル』をお持ちでは…」
「あの剣は、今は手元にないんだ…大丈夫。どうせ僕は使ったことないし…
わかった。とりあえず出来るだけの事をやってみるよ。」
「お願いします…」
ウェンディは、深々と頭を下げた。
ロイは出来るだけ目立たない格好をし、1人でオスティアに向かっていた。
しかし、かえってその格好があだになることをロイは知る由もなかった…
「今日も平和ね…あら?あの格好、盗賊かしら?オスティアの平和を乱すなんて許せないわ!」
リリーナは、我が国オスティアを高台から見下ろしていた。そのため、その盗賊――要するにロイ――は、周りと服装が違ったためにすぐに見つかってしまった。
「早く、『サンダーストーム』を持ってきなさい!」
リリーナは、階段を降りてそう叫んだのだった…
「今のところ、変わった様子はないなぁ…オスティアの人々も普通に暮らしているみたいだし…」
当のロイは、あいかわらずのんびりと大通りを歩いていた。
そして、ふとオスティアの城を見上げると長く蒼い髪の少女が窓のそばに立っていた。少女の髪は、風によって優雅になびいていた。
ロイは、リリーナだと確信し、大きく手を振ったのだが…
その瞬間にロイの体に電撃が走った…
「やったぁ♪命中!私の技の数値はやっぱり高いわね!」
リリーナがロイ――本人は盗賊だと信じて疑わない――に『サンダーストーム』を放ったのだった。
ロイは痛みよりも驚いていた…今のは、間違いなくリリーナの攻撃だったからだ。
「あー、やっぱり今ので3分の1持っていかれた。」
ロイは、嘆きながら立ち上がり、近くの民家のかげに隠れ、『封印の剣』を再び納める際に失敬した『とっこうやく』を1本飲み干した。
そして、ロイは再び走りだした。
「あいつ、なかなかやるわね。でも、まだまだこれからよ!」
そう言ってリリーナは『サンダーストーム』を両手に持ったのだった…
「なんだか、さっきよりも攻撃が激しいような…」
ロイは、走っては隠れ、走っては隠れを繰り返していた。
ロイは、『サンダーストーム』を巧みにかわしながら、序々に自分とオスティア城との距離を縮めようとした…
しかし、リリーナの『サンダーストーム』もゆずらず、ロイが少しでも足を止めれば、容赦なく閃光がロイを貫いた。
その度にロイは、民家のかげに隠れ、『とっこうやく』を1本飲み干すのだった…
攻撃が激しいため前に進むことすら困難だった。
ロイにとって、このテンポアップはかなり応えていた。
「リリーナは僕だって気づいてないんだろうか…」
「でも、前に進まなきゃ…」
いつでも『サンダーストーム』をよけれるように体勢を低くしながらロイは再び走り出した。
しかし、『サンダーストーム』は飛んでこない。
ロイは、今だ!とばかりに全力で走った。
「ちょっと、早く次のサンダーストームを持ってきなさい!」
「そう言われましても、さっきのが最後でして…」
リリーナは、その兵士を叱りつけたあと、自分の部屋から『フォルブレイズ』を持ち出し、階段を下りるのだった…
ロイは、やっとの思いでオスティア城内に転がり込んだ。
転がり込んできたロイを見て、兵士は驚いたがロイが立ち上がるのを手助けしながら、こう言った。
「どうか、リリーナ様を…」
そして、リリーナは降りてきたと同時に目を閉じ精神を集中させる。手にあるのは、『フォルブレイズ』。
「みんな、離れろ!!」
ロイが叫んだ。兵士達はその場から慌てて離れていった。しかし、ロイはリリーナに向かって走り出す。
『フォルブレイズ』は、発動までに少し間があるのでロイは何とか、かわすことができた。
リリーナは、かわされた事だけを確認し、再び詠唱にはいる。
しかし、それはロイのみねうちによってはばまれた。
「ごめんね、リリーナ」
それと同時にリリーナは、倒れた。
ロイは、倒れたリリーナを抱きかかえて、彼女の部屋にいき、ベッドに寝かせた…
「―――あら、ロイ。久しぶりね。」
リリーナは何事もなかったかのように起きあがりロイに笑いかける。
ロイは苦笑した。そして、心から彼女を闘技場にぶち込んだ事を後悔した。
(こんな事になるなら、戦い慣れなんてさせなければ良かった…)
「ねぇ、ロイ。ここに何しにきたの?」
リリーナは、首を傾げる。
その仕草にロイは純粋に‘可愛いなぁ’と思ってしまうが、『とっこうやく』がなかったらおそらくこの場に
いなかっただろうという事実に我に返る。
そして、ロイはリリーナに来た理由から説明し、そのあとに説得し始める…
さすがのリリーナも想いをよせるロイのが相手だから、時折り笑顔を見せながら、快く頷く…
「―――リリーナ、世界には僕なんかより強い人たちがいっぱいいるんだ。
今回は、僕だからよかったけど…実際はしんでたかもしれないんだよ。」
「そうね…ロイだったから助かってるのよね…」
「――リリーナ、一人だけで頑張らないで…僕も協力するから。」
「…ありがとう。ロイ。」
「私、このオスティアが今までより良い国になるように頑張るわ。」
「それでこそ、リリーナだよ」
のちに、フェレとオスティアは、併合しリキア王国となる。
この国は、今までにないような素晴らしい国だ、と言われるようになるが
それは、ロイとリリーナの努力とこの事件があったからこそかもしれない…
〜おまけ〜
『経費の行方』
リリーナは、自分が開けた大穴を腕を組み、にらんでいた。
その穴は、先程のリリーナが放った『フォルブレイズ』によって開けられた穴である。
「来月の半分の経費はここね…」
リリーナは、ため息をついたのだった…
その横にロイがやってきた。
「…リリーナ、やりすぎだよ…」
もし、これが当たっていたら、僕は…とロイは、身震いする。
「――そういえば、リリーナ。今まで警備費に使っていた費用は何に使う予定だったんだい?」
「え!?ひ、費用?えーっとねぇ…孤児院…そう、この戦争で親をなくした子供のために孤児院を造る予定だったの。」
「そうだったんだ…リリーナはやっぱり優しいね。でも、今回みたいに無理はしないでね。」
「わかってるわ。ありがとう、ロイ。」
「――じゃあ、僕そろそろ帰るよ。何も言わずに出てきちゃったから、父上が心配してると思うしね。」
そう言って、ロイはマントをかぶり直し、駆け足で帰っていった…
(ロイには、ロイにだけは絶対に言えない…この費用をロイとの…)
リリーナは、顔を真っ赤にしながら顔をぶんぶん振ったのだった…
〜後書きという名の言い訳〜
まぁ、こわい。
リリーナ恐すぎ。>>( >_< )<<
特に笑うところなんかが。でも、こういうリリーナも書いてて楽しかったです。
まぁ、ロイとリリーナのどっちが強いんだろうみたいなノリで。
それと、リキア王国になる前にこんな事があってもありかなーみたいな。
実際はリリーナの方が全然強いです。(笑)
今回は、ロイの勝ちということで…
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